「舟を編む」

  • 2012.04.22 Sunday
  • 12:27
評価:
三浦 しをん
光文社

今年の本屋大賞第一位の三浦しをん作「舟を編む」を読んだ。

辞書編纂の裏側をドラマ仕立てで進めていくストーリーがすごく面白かった。キャラの設定が非常にすぐれていて、一気に読める本だ。

辞書の話といえば、有名なのが15年ほど前に出版された赤瀬川原平の「新解さんの謎」である。こちらは三省堂「新明解国語辞典」のそれぞれの見出し語の説明にものすごい編集者の想いが詰まっていることを解き明かした本でこれを最初読んだ時はぶっ飛んだ。

有名な「恋愛」の語句説明であるが、手元の第4版の辞書を見てみると、

  •  れんあい【恋愛】ーする 特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。「ー結婚・ー関係」

え〜これが辞書?っていう感じですが、辞書がこれほど身近に感じたことはなかったです。あまりに面白いので当時職場のいろんな人に「新明解国語辞典」を宣伝してまわったのですが、おかげで女の子たちからは変な目で見られました。ま、最近の第7版ではかなり内容が変わっているとのことで、また買おうかなと思っています。

それにしても、辞書編纂はものすごく根気のいる仕事だと思う。言葉の意味をそれこそ5万とか6万というとてつもない数の言葉を一つづつ検証していくという仕事だ。『舟を編む』の中でも「用例採集カード」というものに事あるごとにメモする主人公や監修者の姿が描かれている。

途中、主人公の奥さんが、主人公と付きあう中で「言葉の重要性に気づいた」と言うシーンがあるのだが、この「言葉の重要性」というのがこの本の底流を流れている、著者が言いたかったことなのでは、と感じた。

「言葉」がなければ人間は感情を持てないし、思考もできない、あらゆることは「言葉」があってはじめてできることで、人間が人間であるのも「言葉」があるからだ。聖書に「始めに言葉ありき」という有名なフレーズがあるが、言葉がなければ神の意思も伝えられないし、理解できない。言葉=神であるといってもよいのかもしれない。

そういう意味で、辞書編纂の仕事は地道で時間がかかるものなのだけれど、誇り高き仕事なのだなと思える。

また、この小説に出てくる辞書編纂作業は、あくまで製本する紙の辞書を取り上げている。製紙会社社員のその辞書のためだけの特別な紙質へのチャレンジなども描かれており、究極の技術にこだわる日本人の心意気も感じられる内容になっている。

電子辞書全盛の時代に、ふと感じたのは、こういう技に対するこだわりが最近なくなってきているのではないかという危惧だ。とことん良い辞書を作るための紙へのこだわり、製本へのこだわり、印刷技術へのこだわり、装丁へのこだわり、そういったものが最近どんどん劣化しているような気がする。

僕自身社内でITを担当しながらも、ここ最近の「なんでもIT化」、「なんでも効率化」、とか「とにかく経費削減」というような風潮にはものすごい抵抗を感じてしまう。

本当にIT化が正しいことなんだろうか?

アナログな「人と人とのつながり」は大切じゃないんだろうか?とか、昭和時代のように職場では先輩を敬い、先輩は後輩をいたわり、和気藹々と仕事をすることのほうが大事なんじゃないか?と日々自問自答している。

それは決して「昭和時代に戻りたい」というノスタルジックな気持ちではなく、最近の日本はなんだかIT化、効率化と言い過ぎで、肝心なことを忘れてきたのではないかと思うのだ。

辞書編纂に人生を傾ける生き方もいいなあ、と読みながら、ふとそんなことを感じたのであります。

(追伸:この本のカバーを取り除いた本の装丁、めちゃ凝ってます。漫画本があるのかと思ってしまいました。)

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